【2019.2.25放送】『ファースト・マン』をもっと楽しむための課題映画4選!

【2019.2.25放送】『ファースト・マン』をもっと楽しむための課題映画4選!

宇多丸:
今夜は先週金曜日に扱った、第91回アカデミー賞で視覚効果賞を獲った『ファースト・マン』です。ご存知アポロ11号で初めて月面に降り立った男、ニール・アームストロングの伝記的な作品ということで。監督はデイミアン・チャゼル。脚本はジョシュ・シンガー。そして主演はライアン・ゴズリング。ということで、U-NEXTで観られる作品で言いますと、なんと言ってもデイミアン・チャゼルという方。出世作である長編第二作目の『セッション』、2014年の作品。そして2016年の、みなさんご存知『ラ・ラ・ランド』。この2本とも観られますので。

まあ、僕がその評の中で繰り返し言っている、デイミアン・チャゼルのいまんところ一貫する作風は、「主人公たちだけの世界に没入していく」。周りの世界がどんどん単なる背景となって、主人公たちだけの世界になっていくような感じ。まさに『ファースト・マン』もね、それが実際にその主人公たちだけの月世界旅行という、他の人がタッチできない世界に入り込んでいって。なおかつ、それが主人公ニール・アームストロングが持っている個人的な心の痛みとか喪失感、孤独感みたいなものにつながっていく。だから外宇宙への旅がインナースペースへの旅でもある、というようなあたりが本当に面白い作劇でございました。なのでまあ、連続して、デイミアン・チャゼルの作風と並べてみると、当然『ファースト・マン』、理解がさらに進むといったあたりでございます。

そして、今回の『ファースト・マン』、デイミアン・チャゼル作品として、とはいえエポックメイキングなのは、ジョシュ・シンガーさんという脚本家の方…(デイミアン・チャゼルが)初めて人の脚本で監督をしているということですね。ジョシュ・シンガーさんという方はわりと、資料を調べて、実際にあった出来事を、ジャーナリスティックな視点というのかな、まあ(そういう方向で)やっているんですけども、2015年の作品で、『スポットライト 世紀のスクープ』。これはその年のアカデミー作品賞を取りましたね。

そして昨年日本では公開されましたがスピルバーグの『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』。原題『The Post』という、これ最高! 僕、これ大好きです。これ、やっていることはすごく地味なのに、スピルバーグが本当に映画的テクを駆使しまくって…ただ電話をかけあっている場面を、こんなにも面白く、ハラハラドキドキに見せるか?っていうね。スピルバーグの名匠としての腕も堪能できる一作でしたね。これもおすすめでございます。

あと、評の中でも言いましたけど、この『ファースト・マン』、オープニングシーンでX-15号機っていうロケットエンジンを積んだ飛行機なんですけども。ブーッ!って音速を超えてマッハで飛んで、大気圏を超えて…とにかくその宇宙空間にタッチする、っていう瞬間があって。それで地上に帰ってくる。すると伝説的なパイロットのチャック・イェーガーという方が、吐き捨てるように「こいつ、今月3回目のミスじゃねえか。もう飛行禁止にしろ」みたいなことを言うんですけども。そのチャック・イェーガーも登場する宇宙開発物のクラシック、1983年の『ライトスタッフ』という作品。こちらも私、映画評の中で触れました。

サム・シェパードがそのチャック・イェーガーという伝説的なパイロットを演じていて。まあ、めちゃめちゃかっこいいわけよ。だから映画ファン的には、『ファースト・マン』のオープニングシーンを観て、「ああっ、『ライトスタッフ』の終わりぐらいから始まる話だ!」っていう風に思えるというね。このあたりも楽しいあたりじゃないですかね。まあ、あとはやっぱりアポロ計画…11号で月面着陸をして、その後アポロ13号というのが途中でいろいろと事故を起こしたんだけど、それをいろいろな人のK-U-F-U(工夫)で乗り越えるという、『アポロ13』は言わずもがなのクラシックですからね。こちらもご覧いただきたいと思います。

あと途中、ジェミニ計画…ジェミニ8号で宇宙船と母船がドッキング実験をするという、そのドッキングがすごく上手くいっているところで、ちょっとワルツ調の音楽が流れるんだけど。これはどう考えても『2001年宇宙の旅』の宇宙船が、まるでワルツを踊るように(宇宙ステーションに)入っていく、そのオマージュでしょう、っていうあたりですかね。

あともう1個、今回の『ファースト・マン』、限りなく主人公の主観に寄ったつくりというか。主人公が実際に感じたこと、観たこと以外のことはできるだけ描かない。たとえば宇宙船に乗っていたら、宇宙船の引きの画というか。外側から見た画とかはあんまり撮らない。宇宙船にぴったりくっついたカメラか、コックピットの内部しか見せないんですよ。

なので、非常に限定的な情報しか観客には与えられないということで、主人公の体験していることを体感させる、追体験させるというつくりなんだけど。こういう演出っていまちょっと流行りっていうか。そういう話もしましたよね。『アリー/スター誕生』もわりとそういう演出でしたし。あとはその前の週の『暁に祈れ』っていうタイの刑務所に入っちゃう作品、あれもそうでしたし。で、その流れで、2015年の作品なんですけども『サウルの息子』という、これは熊崎くん、ご覧になったことないですかね?

熊崎風斗:
ごめんなさい。ないんですよね。

宇多丸:
2015年の、いわゆるホロコースト物です。ナチの作った、ユダヤ人を入れて殺しまくっていたという人類史上最悪の施設がありますよね。そこに入れられて。しかもゾンダーコマンドといって、様々なひどい業務をユダヤ人自身に…たとえばガス室の死体の出し入れとか、そういうのを全部ユダヤ人自身にやらせていた、というひっどいシステムがあって。で、まさにその話で。それがすごく主人公の主観にグーッと寄ったつくりになっているんですね。なので、題材は全然違うんだけど、手法としては非常に近いというあたりで、2015年の『サウルの息子』。

人類史上最悪の愚行と、『ファースト・マン』はある意味人類の偉業…まあ、偉業は偉業だよね。人類史上の到達点みたいな。これ、両方が同じような手法で描かれているという。だからこの2本を並べてみると、同じような手法で、人類の下と上が…低みと高みが味わえる、というのも面白い並びの二本立てかな、と思ったりいたします。

今日は多めにね。そんぐらいだから、『ファースト・マン』はいろんな切り口で観ることができる作品、ということで。関連作みたいな並びで観ると面白みが増してくる、というのもいっぱいあると思いますので。『ファースト・マン』、いい機会なんじゃないでしょうか。

ということで今週金曜日、夜6時半からのムービーウォッチメンは、アカデミー賞特別モードということで、第91回アカデミー賞で監督賞、外国語映画賞、撮影賞の三部門を受賞した…ノミネーションはめちゃめちゃいっぱいありますね。アルフォンソ・キュアロン監督作。これはね、某配信サービスのオリジナル作品ではございますが、『ROMA/ローマ』をご紹介したいと思います。

■宇多丸推薦! 『ファーストマン』の次にU-NEXTで観るべき映画
  • 『セッション』デイミアン・チャゼル監督/2014年
  • 『ラ・ラ・ランド』デイミアン・チャゼル監督/2016年
  • 『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』スティーヴン・スピルバーグ監督/2017年
  • 『スポットライト 世紀のスクープ』トム・マッカーシー監督/2015年
  • 『ライトスタッフ』フィリップ・カウフマン監督/1983年
  • 『アポロ13』ロン・ハワード監督/1995年
  • 『2001年宇宙の旅』スタンリー・キューブリック監督/1968年
  • 『サウルの息子』ネメシュ・ラースロー監督/2015年

まだU-NEXTに加入していない方は
宇多丸まずは31日間無料トライアル

現在配信中の作品

    Copyright © 2018 U-NEXT Co., Ltd. All Rights Reserved.